Boys Tree

MOON FACE BOYS, mono tone boy, Go to Bed! Records

The Good, The Bad & The Blind

 三寒四温の夜の冷え込みにまかせて、去りゆく冬を惜しむように今宵もサバの味噌煮風鍋…サバの脂と白味噌のまろやかさのマリアージュよ。ブロッコリと豚肉のサラダとあかもく納豆も一緒に頂いた。
 

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 世の中には自分の思い通りになることなど殆どなくて、とかく摩擦とすれ違いこそ常である。少なくとも少数派を自認する自分にとっては常にその連続であった。
 誰かに対して過大な期待をしすぎるのは相手にとっても負担というものである。本当に気持ちを伝えたいならリスクを負ったとしてもそれを口にしなければならないが、受け入れられるかは別問題である。自分の希望を相手にはっきりと伝えるという行為が、相手に対してずいぶん一方的なのではないかと考えるといよいよ億劫になってくる。
 とにかく前向きに考えるには、他人や目に見えない場に妄想的な期待をするよりも、まず自分自身でできることを少しずつ増やして、できるだけ自分自身でまかなうべきだ、というのがここ数年来の自分の理想である。

 …というわけで、まずはこのコロナ禍で、底がすり減ったスニーカーを自分の手で補修するといった作業から始めてみた(何かの比喩ではなく…)。自分で料理することもそうだが、他人がどう思おうが、自分にとっての愛着こそは欠けがえがないものであることをようやく知ったというわけである。
 ともかく今はまず自分自身にとって楽しめるかどうか、ということが一番重要である。

 The Van Pelt『Sultans of Sentiment』(1997年)を久しぶりに聴いた。
 97年当時に地元柏のDisk UnionでCDを購入して以来よく聴いていた愛聴盤である。確かSleater Kinneyの『Dig Me Out』と一緒に購入したのである。きっかけはジャケ買いだったかポップを読んでだったか…それともその両方だったかもしれないが今考えると強気だったな。
 今振り返るとポスト・ハードコアの流れにあったバンドなのだろう。
 リーダーのChris Leoは、元々はNative Nodというソリッドで繊細な激情ハードコアバンドを率いていて、こちらも大好きなバンドである。
 

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 当時はインターネットもまだ普及しておらず、インタビューなど読めるべくもなかったので、この緑色のゴルファーがパッドしているジャケットアート(メンバーSean P. Greene画)と、スリーブに並んだメンバーの小さなスナップ写真の羅列、何よりその音楽だけがこのバンドを知る唯一の手掛かりだった。
 後年になってインターネットで目にしたインタビューでは、当時ニューヨークは大雪に見舞われて外出することもままならず、ひたすら部屋にこもってこのアルバムを制作した、と語っていた。
 
 サラッとしたクリーントーンツインギターのアンサンブルを中心にした直線的なバンドサウンド、Chris Leoの線の細いスポークンワードスタイルのボーカルが展開する。特にリズム隊などハードコア的なバックボーンを感じさせるもののお約束通りのそれでは決してない。その静かに張り詰めた孤独な音楽は、当時の自分には似ている音楽が見当たらず、引き算の美学に行間の豊かさを感じてとても真摯で創造的に感じた。

 その後大学進学とともに当時のRough TradeやWarszawa、Nat Recordsなんかの輸入盤店に頻繁に出入りするようになるにつけ、crank!やPolyvinyl、Treeなんかのレーベルリリースの存在を知り、USインディ界隈での「エモ/ポストハードコア」の潮流の盛り上がりを知るに至るのだが、その文脈でVan Peltが語られるのを見かける機会も残念ながらほとんどなかった。C.Leoの弟のTed Leo率いるモッド・パンクバンドChiselも同じGern Brandstenレーベルからリリースしていたが、こちらはあれよ、と人気が出た記憶がある。こうしてVan Peltは、まんまと何処にも属せない孤独で不人気なバンドとして、もう1枚のシングル盤をリリースしてその後の活動の気配が途絶えてしまった。
 

・The Van Pelt - The Good, The Bad & The Blind

Crucify our father Edison
Sacrifice to the New Mysticism
Smash the bulbs that lengthen the day
Grind up the pills that took the fever away
Behold! The monsoons and the river snakes

 この曲は当時大学の音楽サークルでコピーしたことを覚えている。
 どこにも上手く馴染める気がせず、やり場のない蒼い衝動を内に抱えて…なんちゃってね。今もさして進歩がないのが全くお恥ずかしい限りである。
 
・The Van Pelt - Speeding Train


 ラストシングル「Speeding Train」。当時これを聴いて彼らの新譜に対する期待は否応にも加速したが、遂にそれが届けられることはなかった。Van Pelt という列車は皮肉にも加速どころかすでに失速していたのである。

 
 バンドのディスコグラフィーなんかも、現在のようにインターネット検索で容易に探し出せる時代では当然なく、偶然にもレコード店のアウトレットのラックで投げ売られていた彼らの1stアルバム『Stealing From Our Favorite Thieves』やNative Nodの作品を発見した当時の喜びといったら、ここ近年では味わうことのない格別なものがあった…何故なら当時はそれらのレコードの存在すらも知らなかったから。