Boys Tree

MOON FACE BOYS, mono tone boy, Go to Bed! Records

American Utopia

 夜はワーク明けに映画館に行こうと決めていたので、職場で鳥ムネ肉にフォークで穴を開けてチンしたものをキャベツにオンしてドレッシングをかけて、しじみのインスタントみそ汁とメカブ納豆で腹ごしらえをした。お昼にみそ汁などを頂く際にも業務スーパーで入手した乾物の「うどんの具」が重宝している。はからずもここ数日の食べ過ぎ傾向を気にしたダイエット志向メニューである。
 

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 京都シネマで上映が開始された『アメリカン・ユートピアを観てきた。
 全くの予備知識なく鑑賞したのだが、最初から最後までそりゃもう圧巻の作品であった。なるべくネタバレなきようにとは思うが、予備知識なしで楽しむ方が何かと驚きや発見がある映画かと思うので、もしこれから見られるご予定のある諸兄はどうか以下読み飛ばして頂きたい。
 

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 とにかくこの舞台上=ユートピアではDavid Byrneが全能の神に見えてくる。
 舞台上には小道具など一切なく、それどころか楽器とP.A.をつなぐ配線すら排している(アンプすら見当たらない)。マイクも小型で透明のインカムのようなものを使用しているようだった。これで全て生演奏だと言うのだから驚きである。
 メンバーには出身国も異なる白人黒人男女も入り乱れているが、衣装は皆一様にグレーのパンツ・スーツに裸足というスタイルで統一されており、ここにもコンセプトやメッセージを強く感じる。このライブショーをニューヨークのブロードウェイで仕掛けて、それをSpike Lee監督が撮るという必然性まで含めて細部まで行き届いた作品に感じた。
 
 曲中やMCでも明確で強いメッセージを打ち出してはいるもののアジテーションのようなものではなくあくまでも淡々としたDavid Byrne節が貫かれておりタマらなくカッコイイ。ユニークで切れ味鋭いダンス・ワークも最高にワクワクするではないか。
 映画館の暗がりの中でひとりシートに沈みながらも、David Byrneソロ作、Talking Headsの名ナンバーの応酬にひそかに心躍らせ、満場のブロードウェイの観客と一緒にスタンディング・オベーションでもってこの素晴らしいショーに応えたい衝動に何度もかられたのだった。
 ステージは隊列や照明の差し引きのみで変化がつけられており、簡素極まりない舞台装置なのだが、だからこそ情報が少ない分、その音楽や歌詞(字幕)がいつになくビビッドに入り込んでくると感じた。実際どこを切っても素晴らしいライブミュージックが鳴っていて、改めて現在のDavid Byrneこそは信頼たりうる稀代の詩人であり、ミュージシャンのひとりである、と再確認した次第である。
 
 Talking Headsのナンバーに関して言えば「This Must Be The Place」のユルカワいいダンスにまんまとハートをわし掴まれ、「I Zimbra」「Blind」辺りでの手ずからギター・カッティングも嬉しいし、トライバルなパーカッションに高揚する「Burning Down the House」、コーラスワークから始まる「Road to Nowhere」のメジャーコードに乗る素直な歌詞がどこか異質な響き方をする。もちろんソロ曲(や共作曲)との並びこそが素晴らしいのであるが。
 
 何度見返したか知れない名作『ストップ・メイキング・センス』(1984年:Jonathan Demme監督)の流れも大いに汲みつつ、混迷の現代にこそ一石を投じるこの作品の意義は大きいし、実際に自分はアートのポジティブな可能性を感じた。そしてこれこそDavid ByrneTalking Heads時代から一貫して貫いている姿勢ではないか、という太い柱も確認できてそれがまた嬉しくもあり。
  
David Byrne's American Utopia - Official Trailer

 

 David Byrneって「home」とか「house」っていう歌詞を多用するな、と改めて。彼自身スコットランド移民であり帰化した過去をMCでも語っておられたが…さて彼にとってのホームとは? はたまたユートピアとはいかに? それを確かめにもう1回見に行きたいものである。

 

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