Summer
先日伊勢丹内のギャラリー「えき」で開催されていた田中一村展を見るために、久しぶりに京都駅構内へと足を踏み入れたのだが、折しもビジネスパーソンや学生などの帰宅ラッシュで駅はカオティックな様相を呈していた。
幸いにも現在京都の感染者数は減少傾向ではあるが、もはやコロナなど気にしては日常生活を送ってはゆけぬ、といったある種あきらめにも似た群衆の覚悟や開き直りの力強い発露を見る思いであった。中には医療従事者はじめエッセンシャルワーカーの方々も少なくなかろうし、改めてそのような方々の日々の功労のおかげで自分たちの生活基盤はあるな、とぼんやり考えた。駅構内を抜ければ、緊急事態宣言下で駅前の飲食店などはどこも早じまいですっかり活気を失っていた。
田中一村展は去る6月頭に会期終了となってしまったが、ワーク後に駆け込みで鑑賞した甲斐のある充実の内容であった。
明治生まれの日本画家で、ちょうど私が生まれた1977年に69歳で亡くなっている。美術学校も入学早々ドロップアウト、晩年まで墨絵作品が多いが、当初は南画家として一部で活躍が見込まれるも支援者らと相容れずオーセンティックな南画シーンからドロップアウト、日展や院展などにも引っかからず中央画壇からもドロップアウト…といったなかなかにアウトローな腐れる青年期を過ごしたようであるが、東京を離れてからは長きに渡って千葉を拠点に活動しており、50歳になって奄美大島へ電撃移住されたという経歴の持ち主である。
作品の横に展示されていた画伯のバラックのような貸家住まいや、痩せ細った故人の写真などを見るにつけ、成功やビッグマネーなどとはついぞ縁のない晩年だったようだが、作品はますます研ぎ澄まされて独自性を帯びていったように感じられた。
いよいよしがらみがなくなったのか、故人の愛した南国の鳥や自然などをモチーフにして好きなものを自由に描いているせいか、のびのびした南国風土とも相まっては見る者をいい塩梅で和ませてくれる。古風で精緻な筆画タッチで描かれた亜熱帯地方の自然風景や動植物の線や色彩などが、今となっては何とも独特なエキゾ・トロピカル感を宿しており静かで平和な気持ちになった。
絵画に限らずアート全般は当然衆目にさらされる以上、誰しも賞や名声を得ることこそはひとつの到達点であり、一般的にもそれが「成功」と見なされるのだろうが、例えばもし一村氏が若くして成功していたとしたら、このような作風には行きついただろうか? とも考えてしまった。
とりあえずこんな柄のアロハシャツはほしいな、なんて。
キャベツと豚肉のカレー炒め、には先日ユーゲで入手した「からくないカレー粉」に新顔の「青麻辣醤」で辛味を加えて。クミンシードの香りも立ってナイスであった。タコとハマチを水菜とトマトにオンしてマリネ・サラダ風に頂いた。残り物の鶏と根菜の煮物も召喚した。
Wheat『Medeiros』(1997年)を。
このCDともすっかり付き合いが長くなり、リリース時に入手した際には某PILのメタル・ボックスよろしくピカピカだったケースは今やすっかり錆びたりくすんだりしてしまったが、この経年劣化こそ愛おしいではないか。
何よりもこのスローとシンプルさに貫かれたメロウ・サウンドこそは自分の中では一向に古びない。スローモーションで泣きながら走っているかのような歌声…この人間の弱み全開の隙だらけ感は一体何なのだろう?
当時はより地味な方地味な方へと…そりゃもう派手なら敵くらいの勢いでパーソナルな私家版インディミュージックへと傾倒していたが、今となっては様々な異なる立場による様々な価値観の多様性こそが面白いと思える。自分もまた齢を重ねたということだろうか?
とにかく今でもたまにふと聴きたくなる、ホタルのようにささやかな光を微弱に放つ名曲ばかりがしたためられた名盤であると個人的には思う。
がしかし苦言を呈すならば、このバンドは他にも数枚アルバムを出しているが、個人的には以降のアルバムにはこのアルバムのような魅力は希薄である、と言わざるをえない。次作『Hope & Adams』では、プロデューサーに当時引っ張りダコであったMercury RevのDave Fridmannを起用し、ここ日本でも流通されたり後に映画のサントラにも起用されたんだったか。今となっては何曲か好きな曲こそあるものの、その華やかな意匠が施されたサウンドには当時心底ガッカリしたものだった。魔法が解けてしまったというか…以降は凡庸なテクノポップに移行するなど更なる迷走を続け、目も当てられなくなり果てた。もはやそこには自分が親近感を感じたような初期の素朴な味わいなど見る影もなくなっていたのである。
・Wheat - Summer
Hey kid, it's summer again
Grow your hair and let your muscles show through
You've been sleeping all summer long
Grow your hair and let your muscles show through
You've been sleeping all summer long
文字通りホタルみたいにひと夏のはかない光だったわけで…だからこそ稀少な一瞬をとらえることこそ録音作品の醍醐味とも思える。知らんけどね。