Boys Tree

MOON FACE BOYS, mono tone boy, Go to Bed! Records

Highway Patrolman

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 先週末からみるみる春めいてきてとまどっている。
 この急展開に順応し切れず、ちゃんとウキウキできていない自分がいる。願わくばもう少しグラデーションが欲しいものだ。
 
 というわけでせっかくの休日の外出は、自転車で近所のスーパー銭湯へ赴いて汗を流すという…地味イベントのみに終始した。
 せっかく外出したんで帰り途にお寿司でもつまむかい? と回転寿司屋さんへ。某Sシローさんは美味しいけど、近年の値上げと混雑とでここ最近は足が遠のきがちである。ついいつも空いている方のご近所Kっぱ寿司さんに駆け込んでは冷たいおビールと一緒にお寿司をつまんだりして。
 序盤こそ優雅な貴族気分であるが、そのうちにカウンターに座って黙々と箸を操る面々が(自分も含めて)、あたかも電線に横一列に並んでエサをつつく鳥たちのように見えてきたりもする。ピースフルな日曜昼下がりの光景のはずが、そのうち何故だか妙に侘しくなってくるこの現象は何だろうか?
 自由に大空に飛び立つことも叶わない全ての養鶏たちに乾杯。
 
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 自宅で「映像研には手を出すな」(2020年)と「渚のシンドバット」(1995年)を鑑賞。
 「映像研〜」は漫画原作及びアニメは未見ながら、実写版はTVシリーズより毎週楽しみに見ていたので、ようやく劇場版にもありつけた次第である。またしても終始バカバカしくも謎の熱量が込められており、何よりキャラクターもカワらしくて和む。長編でも冗長にならずに楽しめた。
 「渚のシンドバット」橋口亮輔監督作で、90年代に同世代を過ごした者としては、当時の青春群像が甘酸っぱく込み上げてきては思わず蒸せ返りそうになった。自身の同性愛志向と周囲とのギャップに戸惑いながらも、正直さを貫く岡田義徳の素直さに感心しつつも一方ではハラハラしたり。はたまた大分あどけなさが残る浜崎あゆみの存在感が性を超越しており眩しかった。一見優等生の子もいたずらっ子にしてもそれぞれに生きづらさや孤独を抱えており、当事者にしてみれば誰しも異分子に違いないのだった。橋口亮輔監督の視点は全てのアウトサイダーに優しく向けられる。高橋和也男闘呼組)による劇中音楽もグッときた。
 

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 最近見た作品だとヤスミン・アフマド監督「タレンタイム〜優しい歌」(2009年)がダントツにぐっときたな。ミャンマーの郊外に終始優しい時間が流れており、何だか静かな慈愛と感動に包まれた。ただでさえ他人と心通わすことが難しい思春期だというのに、聾のハンデに加えて宗教観の違いまで課すとは…と当初こそ胸が痛くなったけど軽妙で淡々としたタッチもあり、全く悲壮感はない。周囲の受け入れ方にしてもハンデもハンデとしてでなく一個性として描かれているような印象である。
 不思議な感触が残った青春映画だった。ヤスミン・アフマド監督の別作品も是非見てみたい。
 

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 「カセットテープ・ダイアリーズ」(2019年)は、The Boss=Bruce Springsteenの音楽が全編で大々的にフィーチャーされている…と言われても個人的にはあまり魅力は感じないけど(失礼)。
 舞台は70年代アメリカはニュージャージーでは決してなく、何故だか80年代のイギリスの郊外(ルートン)に暮らすパキスタン系移民の保守的な家庭に生まれ育った青年がBossの音楽の魅力にハマりこんで、前向きな生き方を強く後押しされるってところにこの映画の個性が宿っているかと思う(日本人が欧米の音楽を嗜む感覚だって似たようなものだろう)。
 高校で新しくできた友だちにもらったカセットテープを何度も再生しては、(再生メディアは変われど)それに合わせて一緒に口ずさむという高校生の姿はいつの時代も変わらないのだな、と嬉しくなる。
 そのうちBossのリリックが生き生きと溢れ出しては踊り始め、映画の終盤には思わずBossの音楽が好きになってしまう作品である。…この映画を見終えたその日からついつい「Boss」って呼びたくなっちゃう。
 
 ものぐさからか相も変わらずついアマプラによるアルゴリズムとの引き合わせに偏ってばかりだが、何の気の迷いだろうか?…どうやらここ数日というものは青春映画三昧だったようだ。
 
 Bruce Springsteen『Nebraska』(1982年)。
 熱心なファンとは決して言えない自分の棚にある唯一のBoss作品である。
 記憶する限り「カセットテープ・ダイアリーズ」劇中では、残念ながらこのアルバムからのナンバーはかからなかった(と思う)。
 

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 Bossの自宅でアコースティックギターと歌を基調にしたシンプルな演奏を、TEACの4trレコーダーで録音したデモ音源がそのまま1枚の作品としてリリースされた異色作ではあるが、個人的にはこの作品に特に愛着を感じる。どこかSuicideとかJohnny Thundersの『Hurt Me』辺りにも通じるような、どこかぽつねんとしたプライベート感に満たされている気がして(実際にBossはSuicideの名曲「Dream Baby Dream」のカバーを披露してたりもする)。
 
Bruce Springsteen - Highway Patrolman

 
Yeah me and Franky laughin' and drinkin', 
nothin' feels better than blood on blood
Takin' turns dancin' with Maria 
as the band played "Night of the Johnstown Flood"
I catch him when he's strayin' like any brother would
Man turns his back on his family, well he just ain't no good
 
 警官の兄が、弟がやらかしてしまっても(暴力沙汰を起こしてしまう)自分は家族を決して見捨てないって曲(だと思う)、アツい。さすがはホームを大事にする男である。
 なおこの映像はこの曲を元に作成されたという、ショーン・ペンの初監督作『インディアン・ランナー』からの1シーンを後から乗せたもののようである。あいにくこの映画は未見だけど、デヴィッド・モースヴィゴ・モーテンセンが兄弟という配役だけでも見てみたくなる。
 ちなみにこの曲はJohnny Cashもカバー(翌1983年)しており、この度初めて聴いてみたけど場末感がぐっと醸し出されており、こちらもハマっている。
 
・Johnny Cash - Highway Patrolman

 

 確かにこんな曲は、大志を抱く若者を描いた青春映画には似つかわしくないのかもしれない。

 とはいえ、この度「カセットテープ・ダイアリーズ」を見て、大箱で映えそうなおなじみのアメリカンロック・ナンバーの数々も(個人的に普段聴くタイプの音楽ではないとはいえ)、改めてBossの熱量がこもっておりカッコいいな、なんて素直に感じた次第である。

 

 今年もまた春はやってくるけど、もう二度と青春は戻らないのだった。