Boys Tree

MOON FACE BOYS, mono tone boy, Go to Bed! Records

U·T

 
 バンドのリハ終わりに、梅田の大阪駅前ビル地階にてグラタンカーニバルご一行様と落ち合ってしばし立ち飲みをば。
 年明け早々からお揃いで病み上がりの光永夫妻は、緩やかな快復ぶりを見せておりひと安心したのだった。安くて美味しいアテと友人たちの笑顔…やっぱりこれですよ、お酒をひときわ美味しくする「マジック」とは、なんて。
 

 
 ここ最近は、サクで買ってきた魚を昆布で〆たりしている。切らずにそのまま昆布で挟んで酢と醤油、お好みでお砂糖を加えて放置するだけ、と無精な自分に持ってこいの簡単さである。浅〆でも美味しいけど、個人的には2〜3日経って糸が引いてくる頃合いが食べ頃だと思っている。週末ともなれば、コイツを肴に白ワインや焼酎なんかと一緒に頂くのがまた至福である。
 

 

 YMO『BGM』(1981年)を久方ぶりに。

 

 
 実のところ、私はいわゆる「YMOYellow Magic Orchestra)ファン」などとは、とてもじゃないけど公言するのが憚られる末席の立場であるのだが、それでも『BGM』は大好きなアルバムで繰り返し聴いていた時期がある。
 十代後半だったか地元の中古レコード屋さんに通い出すようになって、それまでの自分が到底知りもしなかった未知の音楽との出会いの輪が、一挙に広がり出したワクワク感があった。金はないけど時間だけは持て余していた時分に、ある日ふと店内でかかっていたBGMこそ、文字通りYMOの『BGM』であった。とても気に入って店員さんに伺い、即このアルバムを中古購入したことを割と鮮明に覚えている。
 
 とは言え、YMO世代自体は自分たちよりはもうひと周り上の兄さん姉さん方が直撃世代であって、今にして思えば、その世代の教師による選曲で、「Rydeen」を運動会でラインダンスを踊らされた世代こそが我々に当たる(多分)。
 現に自分が物心がついてから、リアルタイムで初めて聴いたアルバムは彼らのラストアルバム『Technodon』(1993年)だった。アルバムのラストナンバー「Pocketful Of Rainbows」(Elvis Presleyカバー)は、日本語にアレンジされた「ポケットが虹でいっぱい」が当時の連続ドラマ『谷口六三商店』に起用されたりして、ラジオやTV等でよくかかっていたことを覚えている(見てた筈だけどドラマの内容が全く思い出せない)。高橋幸宏氏のゆるジェントルなボイスが何とも曲調にも合っており。
 
YMO - ポケットが虹でいっぱい(Live)

 

 マイファーストYMOが1983年の「散開」から時を経て「再生」期の彼らだったというのも何だかロスジェネ世代の間の悪さを象徴しているようで、にんともかんとも…。ちなみにマイファーストRCサクセションは彼らの解散前ラストアルバム『Baby a Go Go』(1991年)であったが故に、何度も聴いては今もって思い入れのあるアルバムでもある。
 
 話は大いに逸れたけど、さて『BGM』の話であった。
 これまた告白しなければならないが(わざわざしなくてもいいけど)、自分はいわゆる坂本龍一氏、細野晴臣氏、高橋幸宏氏等のソロキャリアの熱心なファンというわけでもない。
 ただしこの3人による合奏、とりわけこのアルバムにはバンドの「マジック」を感じてやまない。このアルバムに充満する独特の厳格なダークさとかエッジの鋭さに反するような、抜けのあるユーモア感が改めて好きである。
 昨日のCS&Nとはまた音楽性こそガラリと異なるものの、ナイーヴそうなオタク青年3人組が仲良さげに合奏に取り組んでいる姿は共通しており、それはいつの世であっても、とても平和で微笑ましい風景である。CS&Nよろしく、このアルバムでも作曲は3人のバラバラな個性に彩られており大変耳に楽しい。

 

 3人による共作「U·T」では、曲中で唐突に挿入されるメンバーへのインタビューの下りなどからは、バンドの遊び心や高橋幸宏氏のお茶目な存在感が伝わってくる。
 
YMO - U·T

 

細野:まず、高橋さんから伺いますが、U·Tという言葉ごぞんじじじじ?

高橋:えー、Y·Tなら知っていますがU·Tというのはわたくし初めて聞きました。
細野:そうですか。坂本さん、U·Tというのは、あーどんな意味みみみみ…? 
坂本:はい。あー、超地球的存在です。
細野:そうおですかあぁぁ…。ところでこの曲の高橋さんのドラムすごいですね。 
高橋:えぇ、すごいです。
 
 「U·T」とはてっきり=高橋幸宏氏のことを指してるのだと勝手に思ってたけど、改めて歌詞カードを読み返すに、教授によると「Ultra-Terrestrial」(=超地球的存在)の略だそうで。
 幸宏氏作の「Ballet」「Camouflage」、細野氏との共作「Cue」辺りは、『BGM』の中でも欠かせない佳曲だろう。
 一方教授の「1000 Knives」も好きだし、時折差し込まれる「Happy End」「Loom」なんかの取り留めない電子音響ナンバーなんか今聴いても格好良いし、全編を通して曲が良いのはもちろんのこと、電子音がいちいち気持ちよくツボに入ってくる。ちなみに本作にはプログラミングに松武秀樹氏、翻訳者にはピーター・バラカン氏がクレジットされている。そして当時の名匠、奥村靫正氏によるアートワークが全く絶妙という他ない。
 
 ちなみに個人的に本作中で圧倒的にお気に入りなのは、細野氏による「Mass」だったりして…。
 
YMO - Mass

 
 新年早々訃報ばかりが続いており、全く気が滅入ってしまう。
 高橋幸宏氏が先日享年71歳でご逝去されたそうで、脳腫瘍によって併発した誤嚥性肺炎が原因とのこと。どうかご冥福をお祈りします。
 かく言う自分の父も晩年は飲食時の嚥下が上手くできなくなって、何度か肺炎で緊急入院を繰り返した時期がある(結果本人の意思も尊重して、その後は胃ろう手術をすることとなったのだが)。 今やそんな現世の痛みや苦しみからは解き放たれて、あちらでそこそこハッピーに暮らしてたらよろしいな、などと遺された者たちは陰ながら今日も願うばかりである。
 
 ああ金曜日…。来週も何卒よろしく頼もう。
 そう言えば、明朝のP. バラカン氏の「ウィークエンドサンシャイン」は、確か先週時点では「Terry Hall(Specials)特集」って予告されてたな。そのうち幸宏氏の追悼特集なんかもかかったりするんだろうか?