Boys Tree

MOON FACE BOYS, mono tone boy, Go to Bed! Records

Anyway The Wind Blows

 

 去る週末は徳島のバンドにお呼ばれして徳島遠征をして来た。

 個人的にも徳島県は初めて訪れる土地であり、事前にSDP福田氏に教えて頂いたYouTubeチャンネル「ピエール瀧 YOUR RECOMMENDATIONS」のシリーズ徳島編をチェックしては、やや鼻息荒くあれやこれやと彼の地に想いを馳せていた。…がしかし、現実にはそうゆっくり観光やグルメにばかり興じていられないのが演奏旅行の辛いところである。何よりもメインは他ならぬ「演奏」であるからして。

 
 というわけで今回は、前日より前乗りにて現地入りした我々だったのだが。初日のみカメラマンとして光永氏(グラタンカーニバル)を帯同して、途中淡路島でビーチに寄ってはフォトシューティングに興じたり(バンド写真用途にて)、結局いざ徳島に上陸しても現地でスタジオリハに入ることになっちゃったりして…結局は何やかやと慌ただしくなってしまった。
 

 

 とは言え、いざクラシックな民宿にチェックインして身辺落ち着いてしまえば、後は昭和風情の色濃く残る中心街をぶらっと散歩したり、四国の美味しい魚介メニューや地酒に舌鼓を打つなど、しばし一ツーリストとして現地の空気を吸い込むことが叶ったのだった。
 
 週末の駅前の立地とあってか、直前の予約を試みるも時すでに遅し…近所の名店と誉れ高いお店は軒並み予約満席であったが、投宿先の旅館のベテラン女将にオススメ店をヒアリングしてみたところ、「銀乃介」なるお店を教えて頂いて無事前打ち上げへと漕ぎ着けたのだった。
 果たして「銀乃介」はまごうことなき良店であり、地産メニューはいずれも大変美味しくしばし舌鼓を打ったのだった。正直その外観はと言えば、昨今全国のチェーン店でもありがちな和モダン居酒屋の佇まいそのもので、正直入店前には一瞬ひるんだものの、よくよく見れば内装は古き良き昭和の名残ありありで、おそらくは外装を中心にリノベーションされた店舗なのだろう。
 とにかくさすが老練女将のオススメとあって、出てくるお酒も料理も抜群の新鮮さであった。
 

 
 突き出しのマスに盛られたもずく酢のお出汁加減からひと味違う…お刺身が、ワカメが…ことごとく新鮮さが違うではないか。特に炙り〆サバとか口の中で溶けるようで、普段頂いているものとはちょっと別次元の逸品であった。練り物(フィッシュカツ)ですらも素材の味が濃厚で驚いた(名物であるらしい)。これが瀬戸内海と日本海の恵まれた漁場のなせる技かと唸ってしまった次第である。
 
 はたまた魚介のみならず、蒸したなると金時も糖度が桁違いに強かったし、阿波尾鶏なる地鶏料理も地元名物とあって、筋肉質な引き締まった身が独特の美味さであった。そしてそれらと一緒に頂く芋焼酎(鳴門金時、黒眉山のふくよかな香りがまた旅人の臓腑に染み渡ることと言ったら。はたまた生搾りにてすだち酎ハイで時折お口の中をさっぱりさせたりして。
 宿へ戻って飲み直すもいと楽し。ドライバーのまっつん氏は入浴するや即寝成仏…運転お疲れ様でした。
 

 

 徳島駅近くには居酒屋がなかなか乱立しており、そのしのぎの削り合いっぷりからすると、界隈のクオリティーコスパも自然と底上げされてきた歴史があるのかもしれない、なんて。
 
 かくして翌日は「YOUR RECOMMENDATIONS」で事前チェックした、ひょうたん島クルーズに興じてみた。YouTubeアップからこの数年の間に乗船料に+100円の値上げがあったようで→400円に上がっていたが、それでもお安い。
 ボートに乗船して30分弱をかけて複数本の川に囲まれたひょうたん型の中心街を横目に周遊できるという、これまた自分たちのような一見客には持ってこいのお手軽なサービスであった。
 

 
 初めてのbar txalaparta(チャラパルタ)へ。カメ氏はタートル山以来2度目の来訪だそうである。お酒の種類も豊富なバー・スタイルのライブスペース、クラブ仕様である。お酒も種類が豊富で美味しくて、ここでもご当地名物のかぼすサワーをおかわりさせて頂いたり。何よりも個人的にもお気に入りのFender社製の名器Twin Reverbが常設されている点も実に好印象であった。
 バンド毎にリハ後→即ライブに移るという独特の進行は、コロナ禍以降に編み出された苦肉の策だったそうである。地方のライブスペースも各々に生き残りをかけて、水面下であれやこれや独自に工夫し続けていたことを目の当たりにしては思わずぐっときてしまった。
 
 機材搬入時に地下への階段を降りて扉を開けるや、ちょうど本日のホストであるヒルコサウンドチェックを行なっていた。…と言ってもお会いするのはこの日が初めて。お顔も年齢も知らなかったのだが、全員20代のうら若き青年たちによる3ピース編成のバンドであった。
 かくしてこの日初めてライブで聴けたヒルコは、実に無骨で硬派な印象が好感大なバンドだった。堀部氏の決して派手に歌い上げずに、内向きに込めるようなボーカルとギタースタイルにも勝手ながらどこか共感と感銘を受けた。淡々と寄り添う長町氏とくろいぬ氏によるリズム・バッキングも堅実さを感じさせ、その清潔感には大変ぐっとくるものあり。…だけどいわゆるストイックなそれとは違って、むしろ肩肘張らないユルっとした温度感がまた、個人的に好みである。
 

 
 在りし日の90年代ギターバンド最良の、思わず胸の奥がじんわり焦げるようなフィーリングを感じつつ、かように自然体で独自の誠実さが凛と伝わる音楽を演奏するバンドに今回お呼び頂いたことは光栄の至りである。
 
 共演のムーンサイドホテルは地元の大学生による大所帯バンド、ローファイ・サイケな感じが少しNeutral Milk Hotel辺りを思い出したりして。やはりヒルコの地元の大学の先輩に当たるザキヤマヘイコー氏は、ガットギターをルーパーに通したテクニカルでエンタテインメントなソロプレイがさすがの安定感で、ぐっと場の中後半を頼もしく引き締めてくれていた(当日は兵庫での仕事を終えてわざわざ駆けつけられたとか)。
 出演バンドだけなくお客さんも、地元の現役大学生及びOBが多かったようで客層もぐっと若い印象だったこともあり、おそらく年長者の我々としては…おかげ様でしばしキラキラ気分に包まれたのだった。
 

 
 Moon Face Boysは、今回初めて合わせた新曲を2曲初披露させて頂いた。全曲初めて聴くお客様ばかりであることは承知しているものの、そこは現在進行形のバンドとしての意地なのかもしれない。結果なけなしのフレッシュさを打ち出せたら幸いである…なんて。
 
 ヒルコはもちろんのこと、チャラパルタのスタッフ、現地の温かいお客様のおかげで初めての徳島遠征を実に楽しんで終えることができて感謝至極である。この場を借りて素晴らしい機会を頂いてありがとうございました。
 9月リリース予定の新アルバムが完成したら、是非ともまた徳島の地にも戻って来たいものだ。そしてこういったありがたい縁故をこそ大事にして、次の新しい活動にも積極的に着手していきたい所存である。
 
 J.J. Cale『Okie』(1974年)でも。
 短い週末旅から帰京して洗濯を終えたところで一息ついて、ゆるり聴きたくなり手に取ったレコードはというと…やっぱりJ.J. Caleであった。
 

 
 J.J. Caleのボソボソしたボーカルスタイル、指弾きの独特の丸みあるアタック音、シンプルな楽曲群、この独特のぬるま湯温度…やっぱり自分好みである。
 同じく敬愛するMichael Hurleyじゃないけど、どうせ似たような雰囲気の曲や演奏が並んでいるのが分かっているにも関わらず、つい持っていない作品を見つけるや気が付くと購入してしまっている。不思議な魅力を持つシンガー/ギタリストであり、例えば自分などはVelvet UndergroundやSuicide辺りにも地続きであるかのような魅力を感じてしまうのだ。
 
 こちら3作目『Okie』は、1st作『Naturally』(1971年)などと同じく愛聴盤であるが、一方内容は対照的と言うか、『Okie』の方がより軽妙でサラッと流し聴ける心地良さがある。
 それこそこのうだるように蒸し暑い気候においては、ことさら重宝するところである。肩の力が抜けた軽みある演奏って実際には難しいもので、意外と誰にでも出来るものではない。
 
・J.J. Cale - Anyway The Wind Blows


Some like this and some like that
And some don't know where it's at
If you don't get loose, if you don't groove
Well, your motor won't make it and your motor won't move
 
・J.J. Cale - Okie

 
 例によって1曲当たり約2分、全編でも30分程度の作品なので、あっという間に聴き終わってしまうのが常である。A面1曲目のおおよそオープニングらしからぬ? ゆったりしたレゲエなミッド・ナンバー「Crying」から心奪われたまま「Rock and Roll Records」、「The Old Man and Me」…地味ながらも捨て曲が見当たらないまま片面はあっけなく終わってしまうのだが、アルバムB面〜終盤の流れもまた個人的にお気に入りだ。
 B面はまず名曲「Cajun Moon」から始まって、Tom Pettyがカバー「I'd Like To Love You Baby」、ラストにはビーフハートもカバーした「(I Got The)Same Old Blues」で例によってとりとめもなく閉幕する1枚。とりわけ個人的には、「Precious Memories」〜「Anyway The Wind Blows」〜そしてグッド・インストナンバー「Okie」への流れなど特に好みである。
 ますます湿度の高まりつつある京都の盆地の1室で冷房をかけながら、かつてナッシュヴィルとタルサで録音されたこの南部産のグルーヴに無心で身を委ねるひと時もまた一興である。
 
 一方2005年ドキュメンタリー映像では動くJ.J. Caleが存分に堪能できる(いわゆる派手なステージ・アクト的な動きにはもちろん乏しいのだが)。
 晩年いぶし銀のステージが沁みるじゃないの。クタクタのTシャツ、Danelectro社のセミアコ、右手首のしなやかなスナップ…全てがパーフェクトに思える。
 そして個人的な見どころはホーム・オクラホマの広場での(何と)ソロ・バスキングと、そして何と言ってもスタジオでアコギ1本で弾かれる「Drifters Wife」、「Old St. Louie」の味わいがタマらない。
 
・J.J. Cale - To Tulsa and Back On Tour with 

 
 2013年没の御大が生前晩年に録音した音源が、つい2019年になってリリースされた遺作アルバム『Stay Around』。同作収録のタイトル・ナンバー「Stay Around」のビデオも旅情あふれるアニメーションが何とも美しくてしばしば観賞したりもしている。
 J.J. Caleにしてはいささか洗練されすぎな感も否めないけど、その本質はあくまでも普遍的である。こちら含めて晩年のアルバムは、実はまだあまり通しては聴いたことがない作品ばかりなので、改めてちゃんと聴いてみたいものだ。
 
・J.J. Cale - Stay Around

 
 梅雨明けの爽やかに晴れ渡った青空が恋しいけれど、今しばらくは低空飛行でやり過ごすしかあるまい。
 この年になっても相変わらず自分の至らない点も多くて辟易することしばしばである。はたまた思い通りには進まないことも少なくないけど…たまには徳島で過ごした夜のような嬉しいギフトが待っていると思えばこそ、もう少しだけ顔を上げて歩けそうな気がしている。
 
Easy come, easy go
Any way the wind blows...